先頃、「男系による皇位継承の真の意義」
という文章を見かけた(産経新聞5月6日付、新田均氏)。シンプルにまとめるとー
①「祖先神を祀る祭り主の地位」は「男系によって受け継がれる」。
②なので「たとえ、天皇が祈っても男系で繋がっていなければ通じない」。
③だから「天皇の地位の最終的根拠は男系にある」ーというお話。
ところが、一方で「これは(=上記①②のような考え方は)、
古代東アジアでは共通の観念」と自ら述べている。
元々シナ男系主義に由来する「観念」である事実を、
包み隠さずに明かすのは控えて、敢えて曖昧に表現したのだろう。率直に言えば、わが国本来の伝統“ではない”、ということだ。
何しろ、皇室の「祖先神」は天照大神。つまり女性神だ。
女性神の系統を継ぐと信じて来られた皇室に対して、
シナ男系主義に基づく「観念」をそのまま当て嵌めるのは、乱暴過ぎる。それこそ、シナを崇拝し絶対視する、“からごころ”ではあるまいか
(皇室以外にも祖先神を女性とする氏族が確認できる。猿女君、
阿曇連、尾張中嶋海部直など。明石一紀氏『日本古代の親族構造』参照)。更に、『日本書紀』には高皇産霊尊(タカミムスヒノミコト)を
「皇祖(みおや)」と明記する。
だが、天孫·瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)の母親である
栲幡千千姫(タクハタチヂヒメ)を介した「女系」の繋がりだ。
高皇産霊尊→栲幡千千姫→瓊瓊杵尊という系譜になる。
このように明らかに女系でも、瓊瓊杵尊から3世の子孫に当たり、
初代の天皇とされる神武天皇が、高皇産霊尊に対して厳重な
祭祀(顕斎=ウツシイワイ)を行われた場面が、『日本書紀』
に描かれている。その祭祀は「通じな」かったのか。
非礼かつあり得ない憶断だろう。高皇産霊尊は他にも大内裏にあった神祇官の八神殿などでも
祀られていた事実がある。この文章の冒頭に「神道学の立場から」と断っている。
だが残念ながら、本来の神道とは無縁な言い分でしかない。
なお、文末では「男系否定の底意」は「天皇否定論」という、
妄想も語られている。だが、誰も男系を“否定”していない。
男系も女系も、どちらも認めないと皇位継承そのものが
行き詰まる、と主張しているだけだ。だから側室不在で少子化の時代に、男系“限定”に固執し続けても、
皇位の尊厳と皇室の「聖域」性を守った上で、皇位継承の安定化、
皇室の弥栄に繋がる具体的、現実的な方策を示しさえすれば、よい。
そうすれば、男系限定への(彼らにとって目障りな)懐疑論など、
たちまち雲散霧消するはずだ。しかし、早くそれを提示して欲しいと繰り返し求めても、
何故かいつまでも回答が無い。
無回答のままだと、逆に無理で無茶な男系限定こそ、
皇位継承の行き詰まりを狙った「天皇否定論」という
「底意」を秘めていると疑われても、仕方がないのでは
あるまいか(或いは旧宮家プランによる王朝交替への誘導とか)。【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
BLOGブログ